空き家を売却するために知っておきたい、売却の手順や費用について解説します。
空き家の売却時に発生する税金や解体費用は、公的制度や助成金・補助金をうまく活用することで抑えることができます。
本記事では、経済的負担の軽減に役立つ制度や、空き家を解体すべきか?不動産会社に買取依頼をすべきか?といった様々な疑問に対する答えを、詳しく解説します!
空き家を売却する方法
空き家を売却するには、大きく分けて3つの方法があります。
- 解体しないでそのまま売却
- 解体して更地(土地だけの状態)にしてから売却
- 不動産会社に空き家の買取を依頼
それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。
そのまま売却する
空き家を解体せず、そのままの状態で売却する場合はさらに2つの方法に分けられます。
1.「中古戸建」として売却:築20年以内の場合
「中古戸建」は、家の購入費用を抑えたい人からの高いニーズがあり、築20年以内で状態の良い空き家は比較的早期に売ることができます。
特にリフォーム済みの中古住宅は需要が高く、高値での売却が期待できるため、築20年以内の空き家を手放す場合には、付加価値を持たせるためにリフォームしてから売りに出すこともおすすめです。
リフォーム費用の相場は、一戸建て住宅全体の場合で500~2,000万円程度です。
実行する手間や費用の負担はありますが、早めに買い手が見つかる可能性がぐっとアップします。
また、かかった費用を一部売却価格に上乗せできる可能性もあります。
具体的なリフォーム費用は家の老朽化度合いや工事内容によって大幅に異なります。
複数のリフォーム会社に見積もりしてもらって内容を比較・検討し、売却利益がどれほどとなるか予測・計算してみましょう。
反対に、リフォームに関する時間も費用もかけられない場合には、そのまま売却することも可能です。 ただし、必ず事前に建物の状態を確認し、重大な欠陥については売りに出す前にしっかり修繕しておく必要があります。
【修繕しておくべき欠陥の例】
- 雨漏り
- シロアリ被害
- 配管設備不良 など
契約の時点で買い手側に知らせていなかった欠陥が後に見つかった場合、売主が責任を負うという原則「契約不適合責任」に基づき、たとえ引き渡し後でも契約を白紙に戻されたり、損害賠償を請求されたりする場合があります。
「中古戸建」として売却する場合は、空き家の欠陥を見落としたまま売りに出さないよう注意が必要です。
2.「古家付きの土地」として売却:築20年以上の場合
家は、築20年以上経過してしまうと建物の価値はほぼゼロになってしまいます。
そのため老朽化が進んでいる空き家や、築20年以上が経過した空き家の場合は、購入者によるリフォームや解体を前提とした「古家付きの土地」として売却することがおすすめです。
そのまま売却するので、売りに出す際にリフォームや解体に関する費用や時間がかかりません。
ただし、立地や面積が同条件の「更地(土地だけ)」と比較して不動産価値が下がってしまう、古家があることで買い手が見つからず、売却期間が長引いてしまうという可能性があります。
【そのまま売却(解体なし)の特徴】
メリット
- 解体費用が不要で、即座に売却プロセスを開始できる。
- 状態が良い場合やリフォーム済みの物件は、高値で売却できる可能性がある。
デメリット
- 築年数が古く状態が悪い場合は価値が下がる可能性がある。
- 空き家の状態によっては買い手を見つけにくい。
- 重大な欠陥がある場合、修繕費用がかかり、責任問題に発展するリスクがある。
空き家を解体し、更地にして売却する
空き家を解体し、土地を更地の状態で売却する方法は、更地の需要の高さから早期の売却が期待できます。
解体費用の負担が気になるかもしれませんが、更地の売却価格にいくらか上乗せできるケースや、自治体によっては補助金や助成金が出るケースもあります。
また、空き家を放置し続けると倒壊や火災のリスクもあるうえに、維持管理に費用がかかります。
特に劣化が目立つ空き家は早めに解体し、売却することをおすすめします。
更地にするデメリットとしては、家が建っていない土地には「住宅用地の特例」が適用されないため、固定資産税の減額がなくなり、税の負担が増加する点が挙げられます。
負担を最小限に抑えるためには解体のタイミングを考慮する必要があります。
※「空き家売却時の注意点」に詳細記載
【解体後に売却する際の特徴】
メリット
- 更地は需要が高く、比較的早く売却できることが多い。
- 解体費用について補助金や助成金を利用できる可能性がある。
デメリット
- 解体費用が必要で、売却前の出費が増える。
- 「住宅用地の特例」が適用されず、固定資産税が高くなる可能性がある。
- 解体することで、建物の価値が完全に失われる。
不動産会社に買取を依頼する
一刻も早く確実に現金化したい場合には、不動産買取業者への売却が最もおすすめです。
この方法では不動産会社が買い手となって空き家を「直接買取」します。
売却価格はリフォーム費用等を差し引いた価格となるため、相場の約6~8割程度と市場の相場より安くなることがデメリットといえます。
しかし買い手が不動産会社の場合は、最短で1週間ほどで売買契約ができます。
その後は約1か月以内に現金化できるため、利益よりもスピード重視で売却したい方には最適な方法です。
また、上記の特徴に加えて、契約不適合責任が免責となるという事も大きなメリットです。
売却後に不動産会社にてリフォーム等や修繕等を行うため、売主は修繕に関する費用や手間を省くことができます。
【不動産会社に買取を依頼する際の特徴】
メリット
- 売却プロセスが迅速で、短期間で現金化が可能。
- 買取後のリフォームや修繕は不動産会社が行うため売主の手間が省ける。
- 契約不適合責任が免責となる。
デメリット
- 市場価格より低い価格での買取となる可能性が高い。
空き家売却の相場
空き家の売却価格は、その時の需要や様々な要因によって決まります。
一般的には下記の条件が揃っているほど、高値の売却が期待できるとされています。
《より高値となる条件》
- エリア:都市部
- 築年数:浅い
- 方角や間取り:日当たりの良い南向き
- 土地の面積:広い
- 土地の形状:長方形・台形
《空き家の売却価格を上げるコツ》
1.空き家問題に強い不動産会社を選ぶ
事前に不動産会社のホームページで売却実績をチェックして、空き家の売却を積極的に行っているか確認してみましょう。
2.あらかじめ空き家の汚れを落としておく
空き家に限らず、掃除の行き届いた物件のほうが売却価格は高くなる可能性があります。
自分でできるところはなるべく掃除や補修をしておきましょう。
もし汚れがひどい場合は、利益と出費のバランスを考えつつハウスクリーニングの依頼も検討してみましょう。
空き家の売却に必要な費用
空き家を売却する際に必要な費用として、主に仲介手数料と解体費用の2つが挙げられます。
仲介手数料
仲介手数料とは、不動産会社に空き家の買い手を探してもらい(仲介)、売却が成立した際に不動産会社に支払う成果報酬です。
仲介手数料は売り手と買い手の双方が負担することが一般的で、それぞれの上限金額については宅地建物取引業法で以下のように定められています。
▼仲介手数料の上限額を求める式
仲介手数料の上限 | 不動産の売却価格(税抜) |
---|---|
売却価格×5%(税別) | 200万円以下 |
売却価格×4%+2万円(税別) | 200万円超~400万円以下 |
売却価格×3%+6万円(税別) | 400万円超 |
例)物件価格1000万円の場合
仲介手数料 = 1000万円 × 3% + 6万円 = 36万円(税別)
解体費用
空き家の解体費用は、建物の大きさや周りの道路状況、建物の状態(地震や台風、火事などで破損しているなど)、実施する季節や天候など様々な要因によって大きく変動します。
一般的な木造の戸建住宅で100万円程度が解体費用の相場とされています。
▼NPO法人空き家・空地管理センター算出 解体費用の相場
建物構造 | 解体費用 |
---|---|
木造 | 約40,000円/坪 |
鉄骨造 | 約60,000円/坪 |
鉄筋コンクリート造 | 約70,000円/坪 |
浄化槽 | 約50~80万円/個 |
【参考】NPO法人空き家・空地管理センター:「解体費用について」
【解体時のポイント・注意点】
1.複数の業者に見積もりを依頼する
一般的に、解体業者と解体現場の距離が近ければ近いほど、費用が安くなることが多いです。複数の業者に見積もりを依頼して比較することがおすすめです。
2.建物本体以外の解体・撤去費用を確認する
見落としやすい浄化槽や基礎杭、庭木や庭石、塀といった外構部分の解体・撤去費用が見積もりに含まれているか、忘れずに確認する事が重要です。石綿(アスベスト)が使用されている場合は、石綿除去の費用も追加で必要となります。
3.再建築不可物件ではないか確認する
再建築不可物件とは、昭和25年以前に建てられた家や、都市計画区域等に指定される以前に建てられた接道義務を果たしていない物件(土地)を指し、該当するかどうかは自治体で調べることができます。
再建築不可物件では、家主が変わっても既存の家をリフォームしてそのまま住む事は可能ですが、新たな家を建てるということはできません!
解体してしまうと二度とその土地には建物をたてられなくなり、不動産価値もガクッとさがってしまいます。
再建築不可物件において、今ある家を解体するかどうかの判断は慎重に行うようにしましょう。
※接道義務とは?
建築基準法により定められた「幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならない」という決まり。
空き家の売却に必要な税金
空き家の売却時には、譲渡所得税、登録免許税、印紙税の3種の税金がかかります。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、空き家を売却して得た譲渡所得(利益)に対して課せられる税金です。
譲渡所得金額×税率で納税額を求められます。
1.譲渡所得金額の計算方法
譲渡価格 –【不動産の取得費 + 売却時の諸費用(譲渡費用)】= 譲渡所得金額
2.課税所得税額の計算
税率は不動産の所有期間によって変動します。
短期譲渡所得 (不動産の所有期間5年以内)の場合
課税短期譲渡所得金額 × 税率39%(所得税30%、住民税9%)=納税額
長期譲渡所得(不動産の所有期間5年超え)の場合
課税長期譲渡所得金額 × 20%(所得税15%、住民税5%)=納税額
※2013年1月1日~2037年12月31日まではさらに「復興特別所得税」を、各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付する必要があります。
登録免許税
相続した空き家を売却するには、必ず相続登記(不動産の名義変更)をする必要があります。
登録免許税は、相続登記の際に課せられる税金です。
登録免許税の計算方法は、固定資産税評価額 × 0.4%です。
印紙税
印紙税とは、不動産売買契約書を含む課税文書を作成する際に課せられる国税です。
契約書に収入印紙を貼り付けて納税します。
不動産売買契約書に記載された契約金額ごとに、下記のとおり税率が異なります。
▼印紙税額(契約書1通または1冊につき)
契約金額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
節税に利用できる公的制度
ここからは空き家の売却時に利用できる税制の特例や、受け取れる補助金などについてご紹介します。
空き家の売却時には解体費用や各種税金をはじめ、申請書類の取得費や司法書士への依頼費用等、まとまった出費が必要となります。
公的制度を活用することで、経済的負担を抑えることができますよ。
こうした特例や控除は自分から申告しなければ適用できないため、要件を満たす特例・控除がないか自ら確認することが大切です。
譲渡所得の特別控除
空き家を売って得た譲渡所得(売却金額から取得金額や経費を除いたもの)が3,000万円以下となる場合には、譲渡所得税を納税する必要はありません。
以下のいずれかの控除が適用されて譲渡所得を3000万円以下に抑えられれば、上記同様に譲渡所得税を納税する必要は無くなります。
コスト削減に大変役立つ制度となっているため適用されるか条件を確認しましょう。
どちらも譲渡所得から3,000万円まで控除できる制度で、適用条件は以下のとおりです。
「居住用財産の3,000万円特別控除」
- 居住しなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに売却をする。
- 解体する場合は、解体後1年以内に売買契約を締結する。
- 前年や前々年に同じ特例を受けていない。
「相続空き家の3,000万円特別控除」
- 相続開始直前に被相続人以外の居住者がいない。
- 相続の開始があった日から3年を経過する年の12月31日までに売却をする。
- 昭和56年5月31日以前に建築された建物である。
- 売却価格が1億円以下である。
- 区分所有建物でないこと。
相続した空き家の取得費加算の特例
「相続した空き家の取得費加算の特例」は、相続や遺贈により取得した空き家の売却を対象とした特例です。
譲渡所得の計算に使う「取得費」に支払った相続税の一部を加算できる制度となっており、取得費が増えれば、その分譲渡所得も減ることとなります。
結果的に支払う税金を減らすことができる制度となっています。
適用条件は以下のとおりです。
- 相続や遺贈によって空き家を取得し、相続税を支払っている
- 空き家を相続した日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、空き家を売却している。
ただし、空き家の譲渡所得の特例と取得費加算の特例は併用できません。
10年超所有軽減税率の特例
「10年超所有軽減税率の特例」は、条件を満たせばマイホームを売却した際の譲渡益が「6000万円以下」の場合に限り、通常の長期譲渡所得よりも低い税率で納税できる制度です。
長期譲渡所得(通常時):所得税15.315%+住民税5%=合計20.315%
特例利用時:所得税10.21%+住民税4%=合計14.21%
※譲渡益が6,000万円超の部分については、長期譲渡所得の税率が適用されます。
適用条件は以下のとおりです。
- 売却した年の1月1日時点で不動産の保有期間が10年以上となること。
- 自分が住んでいた居住用不動産であること。(引っ越しの準備期間など短期間だけの利用や、別荘などの趣味や娯楽のために所有する家は除く)
【更地にして売却する場合】
- 土地の譲渡契約が、家を取り壊した日から1年以内に締結されること。
- 住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売却すること。
(家屋の取壊し後、その土地を貸駐車場等、その他の用に供した場合は不可)
【以下の特例の適用を受けていないこと】
※マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができます。
- マイホームの買い換えやマイホームの交換の特例
- マイホームの譲渡損失についての損益通算および繰越控除の特例
- その他、税が軽減される特例
空き家解体の補助金・助成金
空き家を解体して更地を売却する場合、解体にかかる費用に対して補助金や助成金が出る場合があります。
こうした制度の有無や、条件、金額等は、空き家が建っている市区町村ごとに異なるため、自治体のホームページや窓口で確認する必要があります。
例)埼玉県久喜市の場合
補助金額:次のいずれかに低い方の額で上限30万円
〇 工事費用の4/5に相当する額
〇 補助対象空家等の延べ床面積に27,000円を乗じた額
空き家売却時の注意点
ここでは、空き家を売却する際の注意点をご紹介します。
1月1日を超えると、固定資産税が発生する
固定資産税は、毎年1月1日時点の土地の状態で決定されるため、更地の状態で1月1日を迎えた場合は、その年の固定資産税が軽減される「住宅用地の軽減」が適応されずに支払いが増えてしまうケースがあります。
そのため、余計な出費を抑えるためには1月2日以降に更地となるタイミングで解体を依頼する事がおすすめです。
空き家の名義人が自分になっているかを確認する
空き家に限らず、不動産を売却できる権利があるのは名義人だけです。
親が住んでいた家を相続した場合などは、名義人を親から相続人(自分)に変更しなければ売却することができない、ということになります。
法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取得することで現在の名義人を調べることが可能です。
売却前には必ず確認するようにしましょう。
名義変更は「相続登記」と呼ばれ、必要書類(登記事項証明書や相続登記申請書など)と登録免許税の金額を用意したうえで、法務局で申請をします。
書類の準備や記入に時間を割けない場合は、司法書士などの専門家に依頼する事もできます。
まとめ
空き家を売却する方法は、主に下記の3種類に分けられます。
- そのまま売却する
- 空き家を解体し、更地にして売却する
- 不動産会社に買取を依頼する
売却方法を選択する際は、物件の状態、市場状況、自身の財政状況や売却に対する優先順位を考慮して最適な選択をすることが大切です。
また、経済的負担を軽減できる公的制度を活用することで、解体費用や税金といった経済的負担を軽減できます。
特例や控除を確実に受けるためには、事前に適用条件を確認して自ら申告する必要がある、ということを忘れないようにしましょう。