相続税対策に不動産が役立つという事を知っていますか?
相続が発生する際に驚くことが多いのが、支払わなければならない相続税の高さです。
我が国で課される相続税は資産の評価額に応じたものとなっています。
かんたんに言えば「資産が多ければ多いほど、相続税も高くなる」ということです。
そのため「資産の評価額を落とす」ことで、課される相続税の金額が下がる=相続税対策になります。
この際に最も効果的と言えるのが、資産の中でも比較的価値の高いとされる「不動産」を活用した相続税対策です。
本記事では、不動産の相続における税金対策や、相続が発生したときに不動産を活用して節税を行う方法を、ポイントや注意点とともに解説します。
相続税対策に不動産が活用できる理由
相続税の節税対策に不動産を活用するケースは、非常によく見られるものです。
一番の理由は、上述のとおり不動産は資産の中でも大きな金額であることが挙げられます。
さらに、不動産が節税対策に有効な理由はもう一つあります。
それは、不動産なら「相続税評価額」を低く抑えることができるためです。
相続税評価額を時価より抑える
相続税を算出するときは、それぞれの資産の「相続税評価額」というものを定めて、それを基準に相続税が決まります。
- 相続税評価額が高い=相続税:高い
- 相続税評価額が安い=相続税:安い
不動産に対する相続税も同様にして決まりますが、ほかの資産と異なる点があります。
それは、不動産であれば、時価(その時点での市場価格)よりも相続税評価額が安くなるように定められている、という点です。
「不動産」の相続税評価額=時価のおおむね80%程度
例)市場価格が5000万円の不動産の場合
相続税評価額:4000万円程度
⇒控除された差額1000万円分の相続税が節約できる!
もし資産が不動産ではなく現金であれば、例の場合は約1000万円分多く、相続税の納付が必要となります。
このように、資産が不動産であることにより、大きな節税効果が得られるのです。
【参考】「相続税評価額の節税」|知ってトクする不動産売却のタイミング
https://re-fujita.jp/kuki-media/real-estate/202404-02/
土地の評価減の仕組み
もう少し詳しく、不動産の相続税評価額について見てみます。
不動産の内訳は大きく2つに分けられます。
- 土地
- 建物(家屋)
このため不動産の時価は、おおまかに以下の式で求めることができます。
土地の時価+建物の時価=[不動産の時価]
このうち「土地」については、相続税評価額の算出方法が2つあります。
- 路線価方式
路線価方式とは、ある路線に面する土地の評価額を「一平方メートルあたりの価格」✕「面積」で定めた路線価をもとに相続税や、贈与税といったものを計算する方法です。
路線価は、路線(道路)ごとに国税庁が決定・公表しています。
なお国税庁による路線価は、不動産売買の参考価格(市場価格の参考として用いられる国土交通省の公示価格)よりも、20%ほど低く算定されます。
これが土地の評価減の仕組みです。
【参考】財産評価基準書|国税庁
https://www.rosenka.nta.go.jp
- 倍率方式
倍率方式とは、固定資産税評価額(市町村や都が定めた評価額)に一定の倍率を乗算した金額を用いて、相続税を算出する方法です。
倍率方式の場合、価格は土地ごとの形状に影響されて変動します。
こちらは、主に路線価の設定されていない土地の相続税を算出する方法として用いられています。
建物の評価減の仕組み
不動産の内訳のもう一つが、建物(家屋)です。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同一となります。
土地および家屋は市区町村や都によって、ひとつひとつに評価価格が設定されています。
これが、固定資産税や不動産所得税といった納税額の計算基準となっています。
家屋の固定資産税評価額は、経年劣化や建築費用の変動を反映するかたちで、三年に一度の評価替え、つまり金額見直しが行われることになっています。
多くの場合は、評価替えのたびに固定資産税評価額も減額されていきます。
《固定資産税評価額が減額される流れ 例》
- 新築不動産:建築費の60%程度が固定資産税評価額となる。
- 上記の不動産を賃貸に出す。
- 固定資産税評価額が減額される。
上記のように、賃貸に出してある不動産(貸家)における固定資産税評価額減額の計算式は、以下となります。
貸家の評価額減額= 借家権割合の30% ✕ 賃貸割合
例えば、8000万円で建てた不動産の固定資産税評価額を、(建築費8000万円 ✕ 60% =)4800万円とします。
この不動産の全体を貸家としていて、貸部屋が満室である場合は、
(借家権割合 4800万円 ✕ 30%) ✕ 賃貸割合 100% =1440万円 を減額
という計算になります。
固定資産税評価額にして1440万円分の節税が可能になるのです。
小規模宅地等の特例を活用できる
相続する宅地の面積によっては、さらに相続税の課税対象を減額できる「小規模宅地等の特例」という制度も活用できます。
被相続人(財産を残して亡くなった人)の不動産が一定の面積までの広さで、そのほか特定の条件に当てはまることが、小規模宅地等の特例に適合する条件となります。
《減額率》
居住用宅地は、330平方メートルまでの部分につき、80%減額
《適用条件》
相続者が次のパターンのどれか(*)のときに適用:
・被相続人の配偶者
・被相続人と同居していた親族
・被相続人と生計を一にしていた親族の居住宅地を相続した親族
こちらの場合は、例えば相続税評価額が3000万円で、上記の条件を満たしている場合は、
相続税評価額 3000万円 ✕ 80% = 2400万円 を減額
という計算で、実に2400万円ぶんの節税も可能となります。
【参考】
国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
※ほかにも特例の適用ケースがあるほか、パターンごとの詳しい要件について、税務署などに確認する必要があります。
このように不動産は、様々な仕組みを通じて相続税評価額を抑えることができ、結果的に相続税を低減する、節税対策を行うことができるのです。
不動産を使った具体的な節税方法
ここからはさらに、不動産を使ったその他の節税方法を3つご紹介します。
- アパートやマンションの経営を行うことによる節税方法
- 土地の売却による節税方法
- 借入によって不動産を購入して節税する方法
順番に解説します。
アパートやマンション経営による節税
不動産をアパートやマンション等の賃貸に出すことで、自宅用に所有している場合よりも評価額を小さくすることができ、節税効果が得られます。
賃貸運用による評価額の抑制効果
上記「建物の評価減の仕組み」で解説したとおり、不動産を賃貸として運用している場合、下記のような計算で評価額を抑えることが可能です。
貸家の評価額減額= 借家権割合の30% ✕ 賃貸割合
《ポイント》
人気のある地域の物件は、時価が非常に高くなっている場合があります。
こうした際には、賃貸として運用していることによる現在金額の幅も大きなものとなります。
賃貸物件にも小規模宅地の特例を適用できる
賃貸物件には、先に述べた「小規模宅地等の特例」を適用することも可能です。
具体的に言うと、「貸付事業用宅地等」の定義を満たす宅地であれば、200平方メートルまでの土地の相続税評価額を、なんと50%減額することもできます!
借入金を有効活用する
相続時に、その不動産を購入した際の借入金が残っている場合は、その債務額の分だけ相続資産の評価額が控除されます。
下記のケースを例に説明します。
例)
- 4000万円を被相続人が自分で用意した。
- さらに4000万円の借入金を加えて、8000万円の物件を購入した。
- 被相続人が借入金返済中(債務残高が2000万円時点)に相続を行ったケース。
このとき、上記の「小規模宅地等の特例」などを活用して、不動産の相続税評価額が3000万円になっていたとします。
課税対象額はこの3000万円からさらに、債務残高である2000万円を除いた金額となります。
相続税評価額 3000万円 ― 債務残高 2000万円 = 課税対象額 1000万円
上記のように、課税対象額を大幅に減額することが可能です。
アパートやマンション経営での相続税対策における注意点
賃貸として物件運用を行う場合は、注意すべきポイントもあります。
最も注意すべき点は、空室リスクです。
空室がある状況で相続した場合は、そのぶんだけ賃貸割合が下がってしまうため、相続税評価額に対する控除額は減ってしまいます。つまり、満室の場合に比べて相続税が高くついてしまう可能性があります。
加えて、そもそも空室があるということは、物件維持費や固定資産税といった出費があるにもかかわらず、その空室ぶんだけ家賃収入が得られない状態であるということです。
となると、相続税以前に、物件経営者の資産は目減りしてしまうことになります。
不動産の賃貸経営は、多くの人が想定するよりもはるかに手間のかかる事業となります。
そのため時間的コストも大きくかかり、そのあたりを織り込まずに賃貸経営を始めてしまうと、不利益のほうが大きくなってしまうことも考えられます。
アパートやマンション経営による相続税減額を考える場合は、よく見通しを付けてからのほうがよいでしょう。
土地の売却による節税
次に紹介するのが、土地を売却することによる相続税対策です。
- 自宅として使っていた土地を売却する方法
- 放置中の土地を売却する方法
これら二つの方法をご紹介します。
自宅として使っていた土地を売却する
土地を売却して得られた資金を用い、より「小規模宅地等の特例」の適用が大きなところへ引っ越しをすると、その分の節税効果を得られます。
また、自宅を売却した場合は、譲渡所得から3000万円までの控除を受けられる特例や、とくに10年以上所有していた自宅の売却であれば、譲渡所得にかかる税率を特例として軽減する制度(軽減税率の特例)などを活用することで、さらなる節税効果が期待できます。
ただし自宅を売却する場合は、引っ越し、住宅購入、登記関連など、かなり多くの手間が発生することは留め置いておいたほうがよいでしょう。
また、上記のような特例のうちどの制度が適用されるか、判断が難しいという点も、注意が必要な点です。
これらの特例制度は適用条件などが入り組んでいるため、検討する際は不動産業者など専門家に相談するのが一番の近道と言えます。
放置中の土地を売却する
更地のままの土地や、住人の居ない状態(空き家)で放置されている物件などは、それらを売却することで保有継続時にかかる税金や、維持管理のコスト・手間を減らすことができます。
とてもシンプルかつ合理的な方法であるため、売却は一見メリットばかりのようにも思えますが、更地や空き家はすぐに買い手がつくとは限りません。売却期間が長引けばその分余計に、管理維持費がかかります。
また物件の状態や立地などによっては、売却価格が想定よりも低くなってしまうことも十分に考えられます。
とくに、その売却所得をベースにほかの不動産などへの投資を考えている場合などは、自己資金からの不意の持ち出しが発生しないよう、あるいはそれを許容可能な金額に抑えられるように、見通しを付けておく必要があります。
借入・不動産購入による節税
3つ目に紹介するのは、資金の借入による不動産購入という形での節税方法です。
不動産購入時の借入金の残債は、相続税評価額から控除されることになります。
ここで覚えておきたいのが、控除される対象の相続税評価額は、相続財産の「総額」、つまり不動産に限らない財産全体の評価額である、という点です。
【参考】国税庁|No.4126 相続財産から控除できる債務
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4126.htm
これは、相続する財産に大きな額の現金が含まれている場合などに、有効な場合がある方法です。
例えば、相続税対策を目的として、5000万円の借入を行い、それによって不動産を購入したとします。
このとき、購入不動産の相続税評価額が2000万円だったとすると、下記のような計算で相続税評価額の控除が発生します。
不動産の相続税評価額 2000万円 ― 借入金残債 5000万円 = 控除額残り ―3000万円
この「控除額残り」のー3000万円ぶんを、不動産に限らないほかの資産の相続税評価額から控除できるというわけです。
もちろん借入金(債務)とはありていに言えば「借金」ですので、こちらも不動産業者あるいは相続専門の税理士など、専門家や専門業者に相談したうえで計画する必要があるでしょう。
相続税対策の注意点
ここまで、相続税減額の仕組みや、具体的な節税方法について解説してきました。
次はこれらの節税対策における注意点について、掘り下げてみましょう。
明らかに相続税対策とみなされないよう注意
「明らかに相続税対策とみなされる場合に購入した不動産」に関しては、相続税減額や控除といった制度の利用ができなくなる可能性があります。
例えば下記のようなパターンには注意が必要です。
「公的な融資関連書類に、購入目的として相続税対策と書かれている」「購入時の年齢が90歳超であった」
こうした場合に、相続税控除の制度適用が否認されたケースがあるとされています。
つまりは、「その不動産購入の目的が相続税対策であると、購入者本人が公的な書類で認めてしまっている」だとか、「居住する意思あるいは能力がないのに、新規で住宅を購入しており、相続税対策以外の用途が考えにくい」といったケースでは、税務署側が否認せざるを得なくなる、ということと考えられるでしょう。
実際のところ、相続税対策の制度が適用されるかどうかの境界線は、曖昧なところが多く、税務署の判断による部分が大きいとされています。
そのため、こうした公的文書などで相続税対策だと認めてしまうなどすると、税務署側も相応の対応をするしかなくなると考えられます。
こうした、客観的な書類あるいは状況などで相続税対策を明示するような事態は、避けるほうがよいでしょう。
借入の過度な利用に注意
不動産を活用して相続対策を行うといっても、そのために過度な借入をしてしまうようなケースは、避けなければなりません。
債務を完遂できるようしっかりした計画を立て、また各種専門家にあたったうえで、こうした対策を行う必要があります。
借入額だけでなく、不動産購入後に発生するランニングコストについても、しっかり把握しておく必要があります。
例えば固定資産税や、設備管理費、修繕費など、こうしたコストはほとんど全ての物件に発生すると言って間違いありません。
たとえ相続時に税金控除を受けたことで節税できたとしても、その後のこうしたランニングコストによって、自分の資産がかえって減少してしまう、というケースは十分に考えられることです。
つまりは、相続税だけに注目して不動産運用を考えるのは危険である、ということです。
相続対策に限らず、不動産を購入するときは、世帯(家計)の収支や、今後の自分の人生設計、あるいは資産運用の見通しをしっかりたてたうえで、自分の望む安定した生活を送っていけるように計画を組む必要があります。
家族間でのコミュニケーションと相続準備
相続対策を行う際は、家族間でのコミュニケーションをしっかり行っておくことも重要になります。
例えば相続人が複数存在する場合などは、相続財産の分割について考えておく必要が出てくるでしょう。
相続税対策のために購入した物件が一つの物件に限られる場合、誰もが納得するかたちで遺産分割を行うのが困難なことがあります。
このようなときは相続人間で不公平感が生まれ、いさかい、あるいは係争にまで発展することも考えられます。
こうしたリスクを防ぐため、相続対策について考える際は、相続人の人数や、それぞれの家族の要望などをお互いに確認しておくことが重要です。
それに応じて現金あるいはほかの資産を遺す、あるいは複数の物件購入を検討するなどといった準備を行っておく必要があります。
【参考】フジハウジング|相続した不動産を売却する手順やかかる税金について解説
https://re-fujita.jp/kuki-media/real-estate/inheritance-real-estate/
まとめ
相続税対策に不動産が役立ちます。
不動産という財産の形態や、賃貸など運用方法を工夫することによって、相続時に発生する税金を抑えられます。
ただ一方では、不動産は他の資産と比較して大きな金額になることが多く、売買や運用が決して気軽にできるものではないという性質もあります。
そのため、相続にあたっての税金対策のつもりが、かえって資産全体に対しての負担や、相続人にとっての精神的負担を生むというケースにつながるリスクもあります。
このため不動産を活用した相続税対策を考える場合は、不動産業者や税理士など、専門業者、専門家と相談しつつ、しっかりとした計画を立てることが必須となります。
実際に不動産相続の予定、あるいは相続が発生したという場合は、当社へお気軽にご相談ください。