文学の名作の朗読を聞くと、めちゃ癒されると、最近YouTubeで朗読を聞くことがちょっとしたブームになっているが、その朗読を10年以上続けているグループが久喜市内にあった。そこで今回は「憩倶楽部」を主宰している松井利江さん(67)に朗読を始めた動機、朗読の魅力などを伺った。

聞き手・ジャーナリスト長谷田一平

プロフィール

松井利江(まついとしえ)1957(昭和32)年2月生まれ、67歳。

久喜市出身。元公立小学校教諭(久喜市、越谷市) 。

好きな言葉は「ひだまり」「竹のようにまっすぐしなやかに生きたい」

宮沢、芥川、新見らの世界を読む

松井さんは元小学校教諭。朗読を始めたきっかけは50代の時、体調不良となり、2004年春、60歳定年を前倒しして25年間務めた教員生活を卒業したことだった。

 退職すれば当然余暇時間は増える。この余暇時間の有効活用が朗読につながったというわけだ。

教諭時代から「朗読は私の性に合う」として細々と朗読はやっていた。でもより高みを求め、さいたま市内にあるカルチャースクールに通い、元NHKのアナウンサーから朗読のイロハを学んだ。

その講師から学んだことは

 「作家が作品の中で何を伝えたいか、これをまず理解すること」
 「それを踏まえて人に分かりやすく読むこと」
 「伝わるように読むこと」

――アドバイスはこの3つだった。

 カルチャー教室には10年近く通ったという。
 その間自宅で予習・復習を繰り返した。これを10年も繰り返せば、人間誰もが自然とその成果を人に披露したくなるものだ。松井さんもそうだった。

 その思いで2003年6月、久喜高校近くの自宅の1室をくつろぎの場とする「憩倶楽部」を開設した。松井さんの朗読サロンは毎月第2水曜日午後3時スタートで開催している。記念すべき第1回朗読会は2013年6月12日。演目は藤沢周平の「梅雨の傘」と「寿限無」だった。

 そのサロンが昨年10周年を迎えた。この間、朗読作品はどのくらいか、朗読する作家は何人ぐらいいるのか、聞いて驚いた。

持ちネタの数 作品200 作家100

10年間で読んだ作品数は165。

 作家は93人だった。持ちネタの数は?と聞くと、11年目に入った現在、作品数は約200、作家は100人以上と答えた。その詳細は別表の通りだが、その中で好きな作家は…と問うと間髪を入れず「宮沢賢治、芥川龍之介」との答えが返ってきた。

 宮沢の魅力は自分が全く知らない世界を描いていること、芥川は語る人聞く人に自然とその描写が映像として浮かぶことだと話す。

 自らを「朗読ツアーコンダクター」と呼ぶ松井さんに朗読の魅力を聞いてみた。

「登場人物の心の動きや場面の変化などを自分の声だけで伝えられ、しかも聞く人と一緒に作品の素晴らしい空間を共有できること」そう語った。

松井さんの声は…、

 そうだな、NHKの渡辺あゆみ似と言えばちょっと誉めすぎか。
先日取材の際、実際に朗読を聞いて、文を読む抑揚が素晴らしかった、声にも張りがあった。

 セリフの部分は思い切って登場人物になりきって朗読する。
地の部分は淡々と分かりやすく、でも場面転換には細心の注意を払って読む。常にこれを心掛けていると強調した。朗読会に参加した方々にこの会の魅力、松井さんの素晴らしさを聞いてみた。

「今まで自分が手に取ろうと思わなかった本の魅力を知れること」「作品の世界に引き込まされる豊かな朗読がなんと言っても一番の魅力」これに尽きた。

主な「朗読作品」一覧

作家タイトル
宮沢賢治雨ニモマケズ
虔十公園林
なめとこ山の熊
芥川龍之介蜘蛛の糸
トロッコ
藪の中
藤沢周平十三夜
年の市
うぐいす
山本周五郎
藪の薩
新実南吉手袋を買いに
森鴎外高瀬舟
井伏鱒二山椒魚
向田邦子チーコとグランデ
黒柳徹子窓ぎわのトットちゃん
夏目漱石吾輩は猫である
川端康成雨傘
O・ヘンリー賢者の贈り物
阿久悠富士を見て
星新一ポッコちゃん
樋口一葉大つごもり
小川未明負傷した線路と月
梶井基次郎闇の絵巻
深沢七郎楢山節考
中島敦山月記
江國香織ディーク

次回演目(例会:9月11日)

9月は人気№1の「銀河鉄道」に挑戦

次回9月11日の例会の演目だが、宮沢賢治の人気作「銀河鉄道の夜」に挑戦するとか。同作品は宮沢童話作品の中でも最高傑作のひとつで、人気度では№1の名作。「いよいよいってみようかと思っている。長編なので1時間程度でまとめるのが大変」と言いながらも、大作〝銀河〟かける熱い思いを語った。記者もこの朗読は聞きたいと思った。 

「朗読サロン」参加者募集

毎月第2水曜日午後3時~。次回9月11日(8月夏休み)
朗読前にティータイムあり。参加費=ワンコイン500円。
問合せ先=松井さん☎0480―37―7474。メール:happypine@polka.ocn.ne.jp

記事:農事新聞2024年8月4日号

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